書評 『西郷隆盛と幕末維新の政局』



西郷隆盛という名は誰もが一度は必ず耳にしたことがあろう。

そして、その西郷のイメージは「懐の深い」よく肥えた「西郷どん」といったところか。

しかしその西郷イメージとは裏腹に彼の生涯には常に「謎」がつきまとう。その「謎」は西郷の身体のように大きく、底なし沼のように深い。

本書は副題にもあるように薩長同盟(盟約)から征韓論政変までの政局を西郷隆盛の行動と絡めて分析したものだ。

本書が他の西郷論と異なる点は著者も述べているように、西郷の一種不可解な行動(なぜ、征韓論に執拗にこだわったのかというような)の原因を彼の病気(ストレス源)に求め解明しようとしていることだ。この分析手法は著者自身の病気に関係しているという。今までの「歴史」が「健常者」のみの視点で語られたことに疑問を感じたからだともいう。この視点に評者は感動した。個人的なことで恐縮だが、かくいう評者も「健常者」ではないからだ。評者も著者と同じように幕末維新の学修を進めたいと思っている。本書は評者と同じような環境にある者にとって「道しるべ」になるだろう。幕末薩摩や薩長同盟(盟約)に関しては芳 即正・佐々木克高橋秀直・青山忠正・桐野作人諸氏らの、征韓論政変に関しては毛利敏彦・勝田政治氏らの優れた研究が、それぞれある。それらの研究とあわせて読めば「より生身に近い」西郷隆盛像が浮かび上がってくるのではないか。

著者の捉われない史料分析と研究姿勢に敬意を表したい。