<龍馬を語ろう> 第59回 つれづれなるままに〜 龍馬伝第37話・感想



龍馬伝」第37話。「龍馬の妻」。お話の時期は慶応2(1866)年1月〜2月頃。龍馬32歳。

寺田屋」での公儀(幕府)役人との戦闘中、龍馬は左手の親指の根元(神経に近い部分)を切られ深手を負いましたが、命からがら脱出し寺田屋近くの材木小屋にその身を潜めていたといわれています。<寺田屋の怪我の後遺症は大きく、龍馬の左手の自由を奪ったといわれています>。やがて薩摩の吉井幸輔らの救助により龍馬は、京都の薩摩屋敷に保護されました。龍馬の指の傷は本人が考えた以上に深手でなかなか出血が止まらず、立ち上がるたびに眩暈がし用を足すのにも一苦労したようです。公儀役人は「寺田屋襲撃」の翌日の1月25日には寺田屋から龍馬の「逃走」時の「遺留品」を押収しています。

寺田屋で公儀役人をピストルで「撃ち殺した」坂本龍馬という浪士が公儀にとって「要注意」人物とみなされるようになったという証拠ではないでしょうか。

(1月30日にはお龍と三吉慎蔵が京都薩摩屋敷に移り、西郷吉之助の庇護を受けています。)

慶応2(1866)年2月3日には長府毛利家の印藤聿に三吉慎蔵の様子と自分が寺田で「襲撃」されたこと、亀山社中の仲間である新宮馬之助が長州へ向かったことを報じています。

・ 慶応2年2月3日付 印藤聿宛 龍馬書簡 原文抜粋

三吉兄ハ此頃御同行ニて薩

邸ニ入候間、御安心可被遣候。然ニ

去月伏見船宿寺田屋ニて

一宿仕候節、幕府人数と

一戦争仕候。其故ハ此度参ル

寺内新右門参候間、御聞取

奉願候。餘ハ拝顔の上、万〻。

   二月三日     謹言。

    印藤様     龍拝

2月5日には木戸寛治からの書状に薩長盟約を保障した朱書きをしています。龍馬がお龍に手助けされながら朱書を完成させ龍馬がお龍に愛の告白・・・。なかなか画になるシーンではありますが、まあフィクションでしょう。実は龍馬とお龍は元治元(1864)年京都東山粟田 青蓮院塔頭金蔵寺で結婚しています。その一方で中岡慎太郎や西郷の媒酌で「結婚式」あげたという話も残っています。寺田屋の「危機」を乗り越え、絆が強まり、再び西郷や中岡の前で愛を誓ったということだったのかもしれません。

2月6日には再び木戸に手紙を書き寺田屋の遭難を報じています。

木戸孝允宛の坂本龍馬書簡(慶応2年2月6日付) 本文

このたびの使者村新(村田新八)同行にて参上仕り可なれども、実に心に任せざる義これ在り、故は先月二十三日夜伏水(見)に一宿仕り候ところ、不斗(はからず)も幕府より人数さし立て、龍(馬)を打取るとて夜八ツ時ごろ二十人ばかり寝所に押し込み、皆手ごとに鑓とり持ち、口々に上意々々と申し候につき、少々論弁もいたし候えども、早も殺し候勢いあい見え候ゆえ、是非なくかの高杉よりおくられ候ピストールをもって打払い、一人を打ちたおし候。何れ近間に候えば、さらにあだ射ち仕らず候えども、玉目少なく候えば、手を負いながら引取り候者四人ござ候。

この時初め三発致し候とき、ピストールを持ちし手を切られ候えども浅手にて候。そのひまに隣家の家をたたき破り、うしろの町に出候て、薩(摩)の伏水(見)屋敷に引取り申し候。ただ今はその手きず養生中にて、参上ととのはず、何とぞ、御仁免願い奉り候。いずれ近々拝顔、万謝奉り候。謹言々。

二月六夕      龍

    木圭 先生 机下

本文を読むと

? 薩摩藩村田新八西郷隆盛の弟分 のち西南戦争で西郷とともに戦死。>を自分の代役として立てたこと

? 事件のあらまし

? 幕吏に「高杉晋作」から送られたピストルで応戦したこと

がわかります。

木戸と高杉との関係性を考えて、

かの「高杉晋作」さんから送られたピストルで幕吏を打ち払いました、とさりげなく書くところなど龍馬のアピール力が見て取れます。

この手紙の龍馬の筆跡をみると、襟をただし木戸に敬意を払っていることがよくわかります。龍馬の筆遣いや息遣いまでもが伝わってくる―そんな手紙です

龍馬の寺田屋遭難の報に接し木戸は龍馬宛の手紙で

「大兄伏見の御災難ちょっと最早承り候ときは、骨も冷たく相成り、驚き入り候処、弥御無難の様子、巨細承知仕り、不堪雀躍候。大兄は御心の公明と御量の寛大とに御任せなられ候てとかく御用捨これなき方に御座候えども、狐狸の世界か犲狼の世間か、さらに相分からぬ世の中に付、すこしく天日の光り相見え候までは、必ず必ず何事も御用心」

と述べています。

薩長盟約が締結されたことは各地で少しずつ噂になっていったようです。今回の「龍馬伝」では一橋慶喜薩長盟約の締結を瓦版によって知り激怒するというシーンがありましたがフィクションでしょう。

3月1日に龍馬・三吉・お龍は伏見から大坂へ向かっています。この時期長崎に足を運んだかどうか?

劇中では龍馬とグラヴァー邸の「隠し部屋」で夢を語り合う高杉晋作

実は、高杉はグラヴァーを頼りイギリスへ行こうとしていたようなのですが失敗に終わり、代わりに軍艦を購入しています。慶応2年2月の龍馬・晋作2者のグラヴァー邸の「隠し部屋」会談はとても魅力的ですが、状況的に不可能です。

龍馬とお龍は薩摩へ向かいほんの少しの「蜜月期」を過ごすことになるのです・・・。

次回で第3部終了。大政奉還や暗殺に向けて時代が加速しそうですね。