JIN-仁-のいる風景

お初ちゃんの手術中に突然消えた仁。仁は夢とも現実ともつかない光景を眼にします。数分間の現象でしたが、この現象のせいでお初ちゃんは命を落としてしまいます。同時刻、龍馬は「寺田屋」で京都所司代配下に襲われますが難を逃れます。どうやら「歴史」は「史実」どおりに時計の針を進めているようですね。
 
 お初ちゃんの死後、「自分がこの時代にやってきた意味は何なのだろう」と葛藤する仁・・・。そんな時、澤村 田之助から診断の依頼を受けます。田之助の兄弟子である坂東 吉十郎(ばんどう きちじゅうろう)の病状を診て欲しいとのものでした。「JIN-仁-」では鉛中毒に冒されていた吉十郎ですが、この坂東 吉十郎、史実はよくわかっていません。天保の頃(1830〜43年)に活躍した役者であったらしいのですが・・・。
 
 前作、そして今回のエピソードでも重要な「役どころ」を演じた澤村 田之助は歌舞伎史上最年少の16歳という若さで「立女形」(たておやま)<=女役の花形>にまで登りつめた「天才」でした。田之助の役の幅は広く美しい姫君から老婆まで巧みに演じ、さらに本人の芸に対する探究心とも相まって分け視るものを魅了したといいます。田之助 18歳の時の文久2(1862)年舞台で宙吊りの演技の最中に落下し、その怪我がもとで脱疽(だっそ)<傷口から菌が入る>という病気を患います。年を追うごとに田之助の病状は悪化の一途をたどり、慶応3(1867)年には左足を切断。以後義足をつけて「女形」を演じつづけることになりますが精神に異常をきたし明治11(1878)年34歳の若さで亡くなります。

今回の吉十郎のエピソードは田之助の人生をモチーフにしたものではないでしょうか。吉十郎を看取り、咲の後押しを受け粉末化ペニシリンを手に龍馬のもとへ向かう仁なのでした―。