<龍馬を語ろう> 第35回 つれづれなるままに〜 龍馬伝第19話・感想

龍馬伝」第19話。お話の進行時期は文久3(1863)年4月〜5月。今回のテーマは「攘夷決行」でした。佐藤与之助から航海術のイロハを学んでいる龍馬たち塾生―。龍馬たちが「日本の海軍」設立に励んでいる一方で、世の中はまるで「攘夷熱」に浮かされているかのようでした。劇中で勝 海舟も使用していたこの「攘夷」という言葉―使用される時期・人物によって意味が異なり、難しいのですが整理してみましょう。

○ 「単純」な攘夷・・・外国人への(「嫌悪感」からの)「排斥行動」や実力行使。

○ 「破約」攘夷・・・西洋諸国と結んだ「日米修好通商条約」を破棄し、条約締結以前の状態に戻す(あるいは対等な条約を結び直す)

○「日本の独立」を守るための攘夷

「攘夷」という言葉ひとつとってもこれだけ幅があるのです。もちろんこれらの考えは上のようにきれいに分離していたわけではなく補完しあい各々の「攘夷」発想がつくりあげられていったのです。

井伊直弼が「日米修好通商条約」締結後、日本国内は政治的にも社会的にも、そして経済的にも未曾有の混乱期を迎えます。

日本を「大混乱」に陥れた原因は何か。自然外国へと意識が向きます。

「通商」を行なうということは外国人が日本へやってくる。何か事件が起こるかもしれない。「異国人」に日本に地に入れるわけにはいかない。自分が責任ある行動をとらなければ、と考えた孝明天皇。これが「攘夷」のおおもとでした。

さらに天皇が「攘夷」を標榜しているのだから、自分たちが天皇の「攘夷」の意志を尊重し行動するべきだ、とする「尊王」と結びつき、「尊王攘夷」思想と呼ばれました。これが「攘夷」の基本線です。

久坂玄瑞桂小五郎木戸孝允)のいる長州藩は「日米修好通商条約」を締結した幕府(公儀)にそもそもの責任があり、全国の総意を以て「条約」を「破約」し締結し直すべきだとしました。これが「破約」攘夷論です。

「攘夷」を海防の面から考えた人々もいました。外国船の接近に対し「海の守り」を固め海外での貿易を行い欧米諸国と渡り合える実力をつけよう―とする「攘夷」です。勝海舟などがその代表で、龍馬は久坂らの「攘夷」に理解を示しつつも、基本的には海舟の「攘夷」路線だったでしょう。

文久2年(1862)2月11日 第14代将軍徳川家茂孝明天皇の妹・和宮と結婚。
朝廷は和宮と家茂の結婚の条件として、幕府が「攘夷を決行すること」を約束させました。

翌年、文久3(1863)年2月11日朝廷の姉小路公知が幕府に「攘夷」の決行を迫ろうと江戸に下向してきました(この時武市半平太が供のものとして随行しています)。

そして3月11日・将軍家茂が上洛。14日には「攘夷決行日」を5月10日と約束させられます。

文久3年5月10日久坂玄瑞率いる光明寺党は、関門海峡を通過した早速アメリカ商船ベンブローグ号を砲撃しました。

こうして唯一、長州1藩が「攘夷」を行なったのです・・・。

さて、この頃<文久3(1863)年4月〜5月>龍馬はどうしていたか。

龍馬は4月2日同志・沢村惣之丞とともに幕臣大久保一翁を訪ね松平春嶽宛の手紙を託されています。

この大久保一翁は海舟・春嶽と親交のある幕臣。「攘夷」が出来ないなら政権返上せよと発言していた開明的人物です。

4月27日勝 海舟が海軍操練所設立と門弟の指導を幕府より許可されています。
4月28日 龍馬は姉小路公知の摂海視察に随従しています。姉小路は去る2月に幕府に「攘夷」を迫った若手の公家です。海舟や龍馬は「攘夷」の急先鋒であった姉小路を外国船に乗せ「単純な攘夷」が不可能であることを悟らせようと画策。姉小路の若さもあってかこの作戦は見事成功。「単純な攘夷」が難しいことを実感したといわれています。

しかしこれが姉小路の「変節」と受け取られ、文久3年5月20日御所近くの朔平門で殺害されます。姉小路公知 享年25。

姉小路公知を殺害したのは薩摩の者とも、土佐の者とも朝廷内部の姉小路の存在を快く思っていない者の仕業ともいわれており、海舟も龍馬もその死を嘆き悲しんだといいます。

武市半平太が老公・山内容堂から菓子を賜ったのが2月17日のこと。この1月密事御用を勤め、久坂玄瑞と「攘夷」について議論しています(2月10日)。2月25日には平井収二郎らに自首を勧告しています。

劇中でも触れられていましたが、京都で他藩応接役を務めていた平井収二郎間崎哲馬、弘瀬健太とともに青蓮院宮から令旨を賜り、これを楯に国元にいる先々代藩主山内豊資(藩主豊範の実父)に働きかけて藩政改革を断行しようと動いていました。山内容堂は幕府を差し置いて朝廷を動かそうとする勤王党を快く思っておらず露骨に弾圧を始めます。
その手始めが平井収二郎らの捕縛・入牢でした(5月24日)(青蓮院宮令旨事件)

勤王党の運命の歯車が少しずつ狂い始めたのです・・・。